仮初のつがい鳥
4−3
 ベッドで寝るには些かごわごわしたパーティドレスで朝までこってり寝てしまい、稔は次の日激しく後悔していた。
気に入りの服だったのに、細かい皺がいくつもついてしまった。
とにかく服を着替えなくてはと、背中のファスナーを引き下ろしてドレスを脱いだ。髪の毛もセットしていたのだが、そんなものはとうに崩れているだろうことは鏡を見なくても分かっている。
それよりも、薄化粧をしていた肌が、きっと悲惨なことになっているだろう。稔は手早く部屋着に着替えると、洗面所へ駆けていった。
 洗顔のついでにもういっそ風呂に入ってしまえとシャワーを浴びて、自室に帰るとベッドの枕元に綺麗に包装された包みを発見した。首をひねってそれを手に取り、リボンの隙間にはさまれていたカードを開いた。
誕生日を祝う言葉と、甲子郎の名前。送り主は甲子郎。そういえば、昨日の最後に甲子郎が家に来たのだった。しかも思い出すのも恥ずかしい、泣き言を言いたいのを見透かされて慰められて、抱きついてそのまま眠ってしまって、きっと彼が部屋まで運んでくれたのだろう。
昨日の自分の行いに、稔は頭を抱えて唸った。
 今日は二人で婚姻届を出しに役所に行くのだ。甲子郎が迎えに来たときどんな顔をすればよいか稔には分からない。
しかし思い悩んでも昨日の出来事がなくなるわけでもなく、甲子郎が頓着しないでくれていることを願いつつ自分も極力気にしないようにしようと努めるだけだった。

 気を取り直して甲子郎からの誕生日プレゼントを開ける。中身はずっしり重たくて硬くて、一体何が入っているのか稔には見当も付かない。
ぺりぺりと包装紙をめくって出てきたもの。
「……なにこれ……」
再び稔は首をひねった。
取り出したるはハードカバーの分厚いA4版フルカラー本2冊。
それぞれに『世界の犬種大百科』『世界の猫種大百科』と書かれてあった。
本を開くとフルカラーで様々な犬種猫種の写真が載っている、犬猫好きにはたまらない2冊だ。
稔は更に首をひねる。
わざわざ誕生日に贈るものだろうか。
甲子郎は、よく分からない人だ。

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