仮初のつがい鳥
4−1
 一週間後、両家の結納は滞りなく行われ終了した。
着々と進められていく結婚は、やっぱりどこか他人事で稔も甲子郎もあれからまた会わず終い。
 甲子郎に嵌めてもらった日から、稔は指輪を外すことなく過ごしている。
淡く輝きを放つ石が視界に入っては、甲子郎の顔が思い浮かび、なんだかおかしな気分だった。
 結婚式の10日前、稔の誕生日は例年通り家族とごく親しい友人を招いてささやかなパーティを催してもらった。
大きなホールのショートケーキに立てたロウソクを吹き消して、きっとこんなことをするのはこれで最後だろうと思う。
5年後に離婚しても自分は家に戻らないだろうし、戻ったとしても誕生日会をひらく歳でもない。
5年後なんて想像も出来ないような未来の話。けれど必ずやって来る遠くない未来の話。本当にやってくるのだろうか、時々疑わしくなるような、そんな未来。
 みんなにお祝いの言葉をもらって、たくさんのプレゼントをもらって、今更ながらに胸に静寂が去来した。
生まれてから毎年ひとつずつもらっていた熊のぬいぐるみも16個で終わり。
毎年当たり前のように見ていたケーキの上のロウソクも16本で終わり。
いくら疎ましく思ってた所で両親の元で育まれた人生は変えようもなく、生家を離れることがこのように不安と空虚を生み出すとは露ほども考えていなかった。
 稔はパーティが終わった後、客を一通り見送って、こっそりと部屋の隅で唇をかみ締めた。
そうでもしなければ途端にわめいてしまいそうで、そんなこと決して出来ないと分かっていても不安で不安で仕方がなかった。
 思わず俯いて、ぎゅっと手を握り締めた。
「僕がいるよ」
耳元で囁かれて、びっくりして見上げるとそこには今日いるはずのない人。
両親が招待したけれど、どうしても外せない仕事があるからと。
どうして、とか何が、とか口に出すのは違う気がした。
甲子郎が抱き締めてくれたから、稔はその肩にしがみついて顔をうずめた。
大勢の中にいても人恋しくて、不意に差し伸べられた優しさは、稔の気付かない所で心に深く沁みていた。

BACK * TOP * NEXT