仮初のつがい鳥
1−3
 再びリビングに入ると、母親が更に笑顔で迎えた。
心なしかテーブルの上の写真がさっきよりも増えたように思う。
「さっきよりもお写真の数が増えていませんか?」
そう、素直に聞くとその通りであったようで、母親は笑みを深めた。
「そうなのよ、稔さん。稔さんはママに似て器量良しですもの、妻に迎えたいと思う方がたくさんいらっしゃって、ママ本当に鼻が高いわ」
ホホホと高く笑う母親の姿は、娘の幸せを願っているというよりも、求婚者が名だたる御曹司ばかりで自尊心が満たされて嬉しいといった様だ。
 稔は母親の隣に腰を下ろし、再び見合い写真に手を伸ばした。
写真を広げては釣り書に目を通し、隣に置いていく。
出来れば稔の要求を提示した上で、見合い写真を送ってきて欲しいところなのだが、両親に知られればとんでもないと反対を食らい、親の決めた男性と強制的に結婚させられるのだろう。それだけはなんとしてでも避けたいところだ。
 どうすれば稔の望む男性を選り分けられるだろうか。稔は釣り書を捲りながら大いに悩んだ。

「まーあ、見て御覧なさいな稔さん。あの佐想グループのご子息まで、貴方をお望みですってよ。ああ、新納様や光善寺様まで。ママ、迷ってしまうわ」
 結婚するのは稔であろうに、母親は舞い上がっている。稔は母親を睥睨した。
よほどの大企業の子息が見合い写真を送ってきていると見えて、母親はいたく機嫌が良い。
 興奮気味に渡された釣り書には有名な企業名が書かれており、写真の人物には見覚えがあった。
佐想という大企業の御曹司の一人であったが、個人的に好きになれない人物であったので、見合い写真はすぐに閉じた。
 どこかのパーティで一度顔を合わせたが、神経質そうな高慢ちきな雰囲気が稔とは相容れない感じだ。
自信たっぷりな態度で、世界は自分の為に回っているとでも言いたいのか、話は自分の自慢話ばかりで嫌な思いしかしなかった。
あれでは稔の要求どころか話の一切も聞いてくれなさそうだ。
順当にいけば、彼が佐想の三代目というのだから、かの企業の終わりも近いだろう。
歳は稔と5、6しか違わないが、これ以上歳を重ねてあの性格が直るとは思えない。
やはりこの候補はナシだと稔は写真を脇に伏せた。

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