7.不実な男
美人さんは美人であるがゆえに怒るととんでもなく怖そうで、修羅場が予想される今この時点では私は彼の影に隠れてひっそりと息を殺すしかなかった。
私の心臓は別の意味で早鐘を打っている。
血の気はさっきからドン引きで薄ら寒くさえある。
やだなー、この人。
カノジョがいてるのに、なに平気で女連れ込んでるのよ。
女って私のことだけど。何もなかったけど。
今さっきほっぺチューされたけど。
なんて不実な男なんだ。
そんな感想を私が抱いているのも知らないで、彼は私の肩に手を置いて後ろの美人さんに振り向いた。
あ、あ、私の事は紹介しなくていいから。
私、意外と事なかれ主義なんで、こんな気のキツそうな美人さんには怒られたくありません。
できればクローゼットに押し込んで、頃合を見計らって帰してくれればいいから。
浮気発覚を恐れるしょーもない男でいいから。
堂々と浮気相手を紹介するのもどーしようもないけど。
私が青くなったり青くなったり青くなったりしてるのにも気付かないで、彼はあろうことか美人カノジョさんの前で私の肩を引き寄せた。
修羅場決定か!!?
私は巻き込まれただけだぞ!!悪くないぞ!
「これ、佐想ひふみサン。」
指を指すな。紹介するな。「これ」呼ばわりとは何事ぞ。
「ヨカッタわね。そんなことより早く会議に行け。今日の会議に遅れたらただじゃおかないからね。早く行け、今すぐ行け、さっさと行け。私の沽券に関ることなんだから、私の評判が下がるようなことしたら、ドブ川に沈めてやる。」
おおおおおおおおお恐ろしい・・・・・・・!!!!
最後の一言のドスの利きよう!!
やっぱり私の予感は正しかった。
怒らせると怖い・・・。
「はいはい、分かりました。マルベニさん、僕が帰ってくるまでふみのことよろしく。可愛がらなくていいからね、どっちの意味でも。」
ええええええ、ちょっと全然動揺もしてないよ、この人!
怖くないの?
それとも日常茶飯事?
というか、最後の言葉は意味不明ですよ。
彼はやっぱり、にっこり笑って私の頭を撫でると部屋を出て行った。
寝室に残されたのは美人さんと私だけ。
置いて行かないで!
二人きりにしないで!
修羅場は嫌だ!
あなたヒドイよ!!セキニンとってよ!!(カタコト)
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