43.2R
「尊はねえ、あなたが佐想の娘だから仕方なく付き合ってあげてるのよ。それでなくちゃ大の大人があなたみたいな恋愛のれの字も知らないようなお子様相手にするわけないでしょう?」
恋愛のれの字も知った所でどうなるっていうのよ。第一、尊さんから「仕方なく」っていう素振りを見たことがない。どっちかっていうと私のほうの「仕方なく」が強いと思うのよね!
尊さんスキスキオーラ出まくりのこの人には悪いんだけど、私、尊さんに愛されてる自信あるわよ!!!
フッ
「・・・・・何が可笑しいのかしら・・・?」
あら、我知らず笑みがこぼれていたようで。ごめんなさい?
ピクリと動いた柳眉が怖いですね。気のキツイお嬢様って感じ。
「いいえ?気のせいじゃありません?お気になさらず。」
嫌味はこの人だけで充分だから、私まで嫌味言い出すときっと収拾つかなくなるんだわ。
だから私は大人になるの。黙ってじっとお話を聞いてさしあげるのよ。
でもそれすらも「気に食わない!」って言いたげなこの人は、一体私に何を求めているんだろう。
ああ、尊さんと別れるんだっけね。
でもそれ、私が承諾したところで向こうが頷かないわよね。あ、私って自信満々な嫌な女。はっはっは。
「つるみや商事の水流家といえども佐想にはかなわないもの。佐想と繋がりを持つことで、会社に膨大な利益が出ることを彼は知ってるのよ。だから成り行きとはいえ彼はあなたに付き合ってるの。」
気を取り直して、見家菱和は私に懇々と説教をたれる。説教なんかじゃないんだけどね。
この人なんなんだろう、どこか悪いのかしら・・・?
暑気にあてられたのかしら・・・?
「あなたのわがままに尊を振り回さないであげて。もういいでしょう?彼を返して。」
ああ、もう嫌だこの人・・・。
「見家菱和さん。」
お話にならないこの人の話を、黙ってじっと聞いてるのは苦痛だ。
もう、反撃してもいいかな?
「お言葉ですけれど、そんな利益のために女をもてあそぶ様な人だと思ってるんですか?尊さんを。会社の利益のために自分を犠牲にするとか無意味な偽善はしませんよ、あの人。あなた、尊さんの何なんです?従妹でしょう?従妹だったらもうちょっとあの人の事知ってるもんだと思いました。そんなあなたに返せとか、返すとか、それ以前の問題ですよ。」
「な・・・なによ。」
私の思いがけない反撃に、お嬢様はたじろいだ。この人はホンモノのお嬢様だなー。予想外の展開に対処できない、自分が押すのは強気だけど、押されるのは弱い。うん。
「尊さんの意思が最も尊重すべきことでしょう。あの人があなたを選ぶのなら、私は特に文句は言いませんし、あの人が幸せであればそれ以上はありません。」
半分は嘘。尊さんがこんな人選ぶはずないって思ってる半面、この人を万が一選んだら私はきっと尊さんを刺し殺すね!
それくらい好き!なわけじゃない・・・。残念ながら、理由には私の自尊心も追加される。
こんな人に負けてたまるか!
でも、尊さんが幸せならそれでいいの・・・とか寛大な愛の精神はまだまだ未熟で、狭量な思考が今のところ有利。
「私が知らない間に尊さんを振りま・・・」
「尊が私を選べばいいの?」
・・・ちょっと、人の話は最後まで聞きましょうよ。これだからホンモノ箱入りお嬢様は・・・。自分の世界を持ちすぎてて、人の話を全く聞かないんだから。
「あなた、これを聞いてもまだ平然としてられるかしら?」
何・・・?いきなり勝ち誇ったような自信満々の笑み。いやだなー・・・、突拍子もない発言してくるんだろうなー・・・。
あ・・・、今から頭がイタイ。
「わたしと尊は結婚するはずだったの、つい最近まで婚約者同士だったのよ。佐想のご令嬢が現れるまでね。」
憎しみのこもった眼で睨まれる。美人の気迫は相当のもので、つい気圧されてしまった。
「それにわたし、妊娠してるの。もちろん父親は、尊よ。」
「・・・・・・・・・」
・・・・・・・今、何て言った・・・?
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