42.1R


尊さんの家に居た、不審な女の人は陽の下で見るとそれは美人な人だった。
紅子さんには少し劣るかもしれないけれど、それでも紅子さんと比べられるくらいのレベルなんだから、相当のもの。
なんだってあの人の周りには、こんな美人が居て、それで「私」なんだろう・・・。
劣等感もあるけれど、純粋な疑問。

女の人は柔らかなウェーブを描く長い髪をなびかせて、私を近所のカフェに連れて行った。
オープンテラスのある小洒落たカフェだ。今度は喫茶店ではなく、カフェ。
美人は見栄え良い席に案内されるもののようで、片方が美人である私達は外の景色が良く見える、テラスに程近い席に案内された。
店員め、この不穏な空気が感じ取れないのか。どうみたってこれからひと悶着起こしそうじゃないか。
こんな外からも中からも目立つ席に案内しよってからに。
隣の美人は何食わぬ顔で派手な笑顔を振りまいている。
ああ、どうしても裏があるようにしか見えないのは、私と彼女の間に走る火花のせいかしら・・・。
彼女は初対面から私に敵意があるようだった。私も彼女には好意は抱けない。
だって・・・
「さっきからとっても静かなのね、佐想のお嬢様。」
席についた私達はしばらく黙ったままで、店員が水を持ってきてから向こうが先に口を開いた。
嫌味な呼び方・・・。
「尊から、貴方のことよく聞いてたの。表情のコロコロ変わる可愛い妹みたいな子だって。」
これでもかって言うくらい余裕の笑みを顔に刻んで、牽制のつもり?
「あの、どちらさまですか?お会いするのは初めてですよね。」
絶対わざとだって分かってるんだけど、名前くらい名乗りやがれ!!
「あら、ゴメンナサイ。そんなに睨まないで、可愛い顔が台無しよ。」
そんなこと、微塵も思ってないくせに。顔に出てるわよ。
年上のお姉さんぶった言い方しても、敵意丸出しの嫌味だらけじゃない。
「わたしの名前は見家菱和(みやりょうわ)。尊とはいとこ同士なのよ。」
その従妹が尊さんに何の用よ。寝込みを襲うなんて、どういう魂胆よ。寝てる尊さんに何してたのよ。
尊さんも、あんな所でなんで寝てるのよ、風邪ひいても知らないんだから。
イライラがおさまらない。
この人は、キライ。「尊」なんて呼び捨てて、私に見せ付けてる。
私を値踏みするような目で見て、荒があったら指摘しようって言う気満々。居心地が悪い。
けど私にだってプライドがある。
こんな人にいいように言われてたまるもんですか。お嬢様らしくないってよく言われるけど、これでも佐想家の「お嬢様」なんだから、小さい頃から一通りは仕込まれてるのよ。
ぐうの音も出ないくらい、完璧に返してやるわ。
たとえ尊さんの従妹だろうと、貴方になんて、負けないんだから。

「尊さんの従妹の方が、私に何か御用ですか?」
お嬢様っていうのはね、箱入りなんだから察しが悪くて気が利かないのよ。
そんでもって私はお子様ですからね、何にもわかりませーんって顔してやるわ。こどもだから空気がよめませーん。
「あら、大体察しはついてると思ってたのに、意外とおつむが軽いのね。」
我慢我慢。ケンカ売りにきてるこの人のペースに乗せられちゃ元も子もない。私が冷静にならなくちゃ。
見家菱和は優雅な仕草で頼んでおいた紅茶を口に運ぶ。美人と言うだけで、優雅さが3割増しするのは世の中不公平だ。
「で、何の御用ですか?」
さっさと言いやがれ。尊さんは寝たままで、私が家に行ったことも知らないんだぞ。今のうちに起きちゃったらどうしてくれるのよ。メモは一応残してきたけど、果たして寝起きで気付いてくれるのか・・・。
「せっかちね。」
もったいぶってなかなか口を開かない見家菱和。あー、もーイライラする。
その馬鹿にした笑いが腹立つ。おっと、腹立てちゃいけないのよ、いけないのよ。
「じゃあ、お望み通り単刀直入に申し上げるわ。尊と別れて頂戴。」
「お断りします。」
間髪いれず、即答。
当たり前でしょう?なんで他人に言われて別れなくちゃならんのだ。それも女に、恋敵に!
にっこりも笑えない。冗談じゃない。
ピクリと彼女の片眉が釣り上がって、さも心外と私をきつく睨みつける。

たとえ別れ話が出ようと、それは二人の問題であって第三者がどうこう言える話じゃないのよ。それとも貴方は関係があると仰るのかしら。聞かせてもらおうじゃないか、さあ。
女の戦いは始まったばかり。
第一ラウンドのゴングが鳴り響く。
カーーーン。







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