4.怒髪天を衝く


家に帰ると父がいた。
一昨年の夏に母が他界してから、仕事で寂しさを紛らわそうとしているのか夜遅くに帰ってくることが多くなっていた。
そんな父が珍しく夕食時にいるとはどうしたことだろうか。
いぶかしんで見ていると、目が合って居間に呼ばれた。
特に親子仲が悪いわけではないけれど、父の常でない余所余所しさに居心地が悪かった。

「明日、お前の婚約者に会うから、用意しておきなさい。」

居間に入って開口一番言われた言葉。
「は・・・・?」
どう反応してよいやら困った。どうもこうも、婚約者がいること自体知らなかったし、明日いきなり会うと言われても心の準備も何もない。
ただ唖然として開いた口がふさがらなかった。

追い討ちをかけるように父が再び口を開く。
「お前が高校を卒業したら籍を入れる。」

それは、決定事項ですか?私の意見はないものですか?
この時ばかりは怒りのあまり体がわなないた。
つい今しがた失恋して、傷心を抱えて帰ってきた娘に更に心が疲弊するような話をするな。
ただでさえ、見も知らぬ相手と結婚しろだなんて拒否権発動なのに、私には好きな人がいてるんだ。
・・・失恋はしたけども、その失恋で心はズタボロなんだ。

私の精神は許容量を越えていたんだと思う。
だから

「ぐ・・・・・・
グレてやるーーーーーーーーー!!!!」

なんて一昔前の台詞を叫んで家を飛び出したんだ。

泣くよ。







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