32.幼い頃


頻繁に家にやってくる、知り合いのお兄さんだったの。
お母さんの話では、私が生まれるより前からよく家に遊びに来てたって。
生まれたての私を抱っこしたこともあるって言ってた。

「ふみ、ふみ。」
と名前を呼んで、優しく頭を撫でてくれた。
せがめばすぐに抱き上げてくれて、四六時中飽くことなく傍にいた。
だから、幼いながらも恋心を抱くには充分すぎる理由が彼にはあった。
どこから「結婚」なんて言葉を覚えてくるのか知らないけれど、彼と結婚するんだって当然のように思ってた。
両親には言ってたけれど、本人には恥ずかしくて言えなくて、そしたらある日お母さんがうっかり口を滑らせたのよ。

「ひふみが大人になったらアンタと結婚したいねんてー。」

恥ずかしくって、思わずお母さんに体当たりした勢いでバシバシ叩いたのよ。
でも驚いて目を見開く彼に、一大決心をしてプロポーズしたのよ。
「あーちゃんとけっこんしる!!!」
女の子からよ!?一世一代の大勝負よ!?
なのに・・・なのに、あーちゃんったら・・・。

「カノジョがいるからムリ!」

・・・・・・・って・・・・・・!!!!
青ざめた顔して言いやがって!!
もうちょっと他に言いようがあるでしょう!?なんで直球勝負にホームラン打つようなこと言うのかな。
しかも幼い子どもにさ!!

恋焦がれた彼に、彼女がいてたことにも腹が立ったし、思い通りにならなくて腹が立った。
思いが通じないことへの悲しみと憤りに泣こうかと思ったの。
でも彼の困る顔が見たくなかったから、お母さんの腕から逃れて彼にタックルかましたの。


抱っこをせがむ仕草をして、彼がかがんだ瞬間にキスしてやったのよ。


あれが私のファーストキス。
あの後、彼は困った声で私の名を呟いていた。
うしろではお母さんが大笑いしていた。



その彼が、私のプロポーズを一度断っている彼が?
私をお嫁に欲しいですって。

・・・・・・・どうやって仕返ししてやろうかしら・・・・・?







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