25.本日3回目のインターホン


晩御飯、と言っても話を切り替える口実にしたわけで、時間は何度も言うようですがおやつの時間を過ぎたくらい。
まだまだ空腹には及ばない。
しかしながら昼食をあのホテルで摂るはずだった私は見事に食いっぱぐれたわけで、それだけが敵前逃亡したことへの後悔の種かな。
まあ、でもあの状況でホテルの豪華な食事を出されても、確実に喉を通らなかっただろうけど・・・。

ちょっと切ない悲鳴をあげるお腹を見下ろして、私は紅子さんと共にソファに腰掛けた。
振袖の帯で締め付けられて、うん、そんなにお腹は空いてないように思えてきた。・・・と誤魔化す自分が少し哀れだ。

「で、お相手の感想は!?」
ずずいっと紅子さんの美顔が視界に広がる。美人は毛穴まで美人だなあ・・・。
私の相手を紅子さんに任せた尊さんはキッチンで用事をしているらしく、こちらの話に見向きもしない。
でもひっそりこっそり聞かれてたら気まずいのでぽっそりこっしょり耳打ちしよう。
「昨日、私が失恋した憧れの人でした。葎屋桑一郎さん、歳は18です。彼女がいるのに見合いに来た根性が許せず目の前で罵声を浴びせて逃亡してきました。」
私は尊さんに聞かれたくなくてわざわざ耳打ちしたのに・・・・したのに・・・!!
「ええええええ!!!ずっと憧れてたのに彼女がいると知って失恋した相手が見合い相手だった!!」
うーわー!!大声で分かりやすく言うな!くそう!この人本当に秘書業こなしてるのか!?
あ、『尊さんの』秘書だからか!!不覚、謀られた気分だ。
尊さんの方をこっそり盗み見ると気のない振りをしつつしっかり聞いてる!ううう、盗み聞きとは卑怯なり!紅子さんの声は盗み聞くまでもなく聞こえる音量だけどさ!
ここには私の味方はいないのか!?

「ショックだったでしょうねえ。」

ぽつりとこぼした紅子さんの言葉が胸に染み入り、じんわりと浮かび上がった涙に声も出せず、ただ頷いた。
「ううう〜〜〜。」
嗚咽を漏らして紅子さんの豊かな胸に抱きつく。
あ、こういう感覚久し振りだ。お母さんに抱きしめられてるみたい・・・。怖いから言わないけど。
でも、すごく安心する。耳に鼓動が聞こえる。


ピンポ〜ン

突如、間延びしたインターホンの音が響き、我に返った。
紅子さんからはなれ、愛想笑いを浮かべる。高校生にもなって、人に抱きついて泣くだなんて。
「はい、水流です。」
向こうで尊さんがインターホンに向かっている。来客か。
ほどなくして受話器を置く重い音が届いた。

「ふみ、お父さんが迎えに来たよ。」
「げっ」
そんな淡々と言わないで。さっきの情熱は、さっきの積極性はどこへいってしまったの、尊さん。
せめて「大変だ!」とか緊迫感溢れる言葉を冒頭に入れて欲しかった。
「もうすぐいらっしゃるよ。」
「げっ」
「どうも婚約者殿も一緒みたいだけど。」
「ちょっと、どうしてそんなに味気ない言い方するんですか!自分は関係ないとか思ってるの!?」
私が見合いの席に戻されてもあなたはいいの!?
「君がここへ来た事実はもう彼らの知る所なんだから、当然僕も当事者になるわけだ。今更あわてても仕方がない。」
正論なんだけどさ〜〜!なんかこう、情熱に欠けるというか、ロマンスに足りないと言うか、不満だわ!







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