2.とりあえずセーフ


私の声が聞こえなかったのか、『彼』はマイペースに枕もとの時計をつかんで時刻を確認していた。
私の視線に気付くとにっこり微笑んで一言。

「おはよう、ふみ。」

寝起きは悪くない様子。
・・・そんな分析はいらない。

なおもマイペースに彼はベッドから這い出して、あくびをひとつしながら部屋の扉を開けて出て行った。
バタンと扉が閉まる軽い音に、まともな分析の出来ない頭が少し覚醒した。
「はっ・・・。」
慌てて室内をくまなくチェック。
特に変わった様子はなし。
というよりもむしろ変わった様子が探せない程この寝室にはものがない。
『ものがない』というのが『普通でない』ところ。
寝室なんてベッドくらいしか置かないのかも知れないけれど、それにしたって何もない。クロゼットすらない。
部屋が狭いわけでもない。むしろ広い。

私もベッドから這い出して、この寝室の窓に歩み寄った。
大きく開かれたベランダの窓。
簡素な灰色無地のカーテンを少し分けて外を覗き見た。

今日は晴天。
雲ひとつない日差しの穏やかな、春の一日。

「あれ・・・?」

さっき、彼はなんと言っただろうか?
「ふみ・・・・・・・・?」

それは私の呼び名。
ごくごく親しい人しか呼ばない、呼ばせない私の呼び名。
どうして彼が知っているのか。
記憶のない間に、そのように自己紹介してしまったのだろうか。
首を傾げれども記憶が捻り出せるわけでもなし。

「それよりも」
自分の身。

全身を見下ろす。
よかった。

服着てる。
制服のスカートにシャツだけど、下着も大丈夫だし。


「とりあえず、セーフですかね?」







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