1.誰何の声


いつも通りの朝。
スズメの鳴き声と陽の光、全ての生物が活動しだす騒音で目が覚めた。

まだ惰眠を貪りたがる体が、寝返りをうつべく身じろぎをする。
動くと、掛け布団と敷き布団に素肌が擦れて少しくすぐったさを感じた。
サラサラとしたシーツの冷たさに火照った体が心地よさを覚えるのを感じ、もっと涼を得ようと布団の中を弄った。
シャカシャカと自分の手が鳴らすシーツの音で、段々と怠け心が薄らいで、緩慢な動作ながらも目を開け布団から這い出した。

ぼんやりと視界に写る部屋は全体的に無機質を連想させる灰色でまとめられていて、井然としている。
どこかのショールームの方が幾分華やかに飾られている。

「どこだろう、ここは・・・?」

とりあえず呟いて、自分の声が部屋に響くのを確かめると、これが夢ではないことを知った。
「昨日・・・どっか泊まりに出かけたっけ?」
首をひねって記憶をもひねり出そうとしたけれど、覚めきらない思考の中ではままならず、再びぼんやりと視線を中空に漂わせるのだった。

「・・・ふみ・・・寒い。」
「ああ、ゴメンナサイ気付かなかった。」

と、そこで気付いた。
本当に気付かなかった。
隣に誰かがいる。
知らない声。
ついでに言うと低い声。

一気に血の気が引いた。
眠気なんて言ってる場合じゃない。

それまでぼんやりしていた視界が急に鮮明になったけれど、思考能力は平常心を行き過ぎてもはや恐慌状態である。
指先は冷え切って一ミリも動けないでいるのに心臓は早鐘を打ち、血が勢いよく体内を駆け巡る。
耳朶には自分の血流が聞こえて、嫌でも自らの緊張を感じてしまう。

どうなってるの。
何が。
どうして。

視線を右隣へ走らせたところで対象が起きだした。
私の横に今まさに、居る。

右の耳から対象の、朝に相応しい大げさなあくびが聞こえてきた。
恐る恐る声のした方へ首をめぐらしてみた。


「・・・・・・・・誰?」







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