16.シチュエーションの違い


どうしよう、どうしよう。
冗談でおちゃらけた事言っちゃったけど、あの時の人が目の前にいるなんて。
神様は反則が好きだ。

これ以上私の顔を赤くさせてどうしようっていうのよ。
飲み屋の提灯よりも赤いわよ。
もう、視線なんて合わせられるはずがない。

「まあ、『間男』はどうでもいいけど。あの時、意味分かってた?」
私は高揚した思考で首を振る。
「帰ってから辞書ひきました。」
深く考えずに素直に答えてしまった。私の馬鹿正直。

「ぷ。」「ぶふぅっ」

ひどい、大人二人がいたいけな少女を笑いものにするなんてっ!
ちなみに最初の小さいのは目の前から、あとのいかにも「噴出しました」的なのが向こうのダイニングから聞こえてきました。
紅子さん笑いすぎ。しっかり聞いてるし・・・。



笑われた事で一気に高揚感が覚めた私は、まだどぎまぎしながらも水流さんを視界にとらえた。
あのひとときは夢じゃなかったのか・・・。

お母さんのお通夜の夜、ほんの数分話しただけの人だけど、ある意味私の恩人である人。
お母さんのことを怨まないでいられるのも、哀しみに暮れないでいられるのも、彼が私に教えてくれたから。
お母さんの大好きな歌と共に、彼は私に大切なことを教えてくれた。
私がお母さんを忘れなければ、お母さんは永遠なんだ。
私が大好きなキラキラ笑顔のお母さんなんだ。
私達を大好きでいてくれるお母さんなんだ。

だから彼が何者であろうとも、私にとって彼は特別で大切な人なの。
それが恋か憧れかは別にして。

また会えるなんて思わなかったから驚いた。
あの時顔が見えなくて良かったかもしれない。
だって、こんな人だって分かっていたら、絶対に恋してた。
絶対に好きになってた。
今日みたいな出会い方じゃなくて、あの時の出会い方なら完全に撃沈されてた。

今朝のもなかなかインパクトのある出会いでしたけどね・・・。
惚れた腫れた以前に一番初めに警戒心がありましたから。
いまだにこの人が何者なのかよく分かっていないし。
それなりの社会的地位があるようですから、怪しい人ではなさそうだけれど。
お母さんの知り合いらしいけど、私の知ったことではない。

あの時の彼は慕わしいけれど、目の前の彼にはまだ心は許せない。


・・・はず・・・。







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