13.過去を知る人


ダイニングテーブルから彼が料理する様を眺めていた。
男の人が生業以外で料理をするなんて、私にはとっても珍しいことだったので、ついついじっと見てしまう。

「そういえば、アンタなんで帰ってきたの?会議は?」
美人秘書サン、それは一番初めに聞かなくちゃいけないことなんじゃないですか?
美人秘書サンの沽券に関りますよ。

「んー、ミヤのじーさんが倒れたって。会議中止。」
てきぱきとニンジンを刻みながら片手間に話す彼。ニンジンって硬いから切りにくいのよね。
男の人は力があるからきっとニンジンもタマネギも変わりなく切っちゃうんだろうな。
いいなあ、男の人って。

って、人が倒れてるとかいう話なのに、なんでそんな平然としてるのよ。
「で、アンタはなんでここに帰ってきたのよ。」
そうですよ、マルベニ女史。
「ふみが心配だったから。じーさんが倒れるのなんか今に始まったことじゃないし、どうせ遊びすぎだよ。昨日も京都で芸子遊びしてたって噂だし。」
呆れたように溜息を吐いてフライパンを火にかけた。
ウチのお祖父さまもよく女の人と遊んでるわ・・・。祇園も大好きだって以前言ってたし、きっと気が合うわね、そのお爺さまと・・・。

彼はその後も淀みない動作で鉄鍋を回し、私達の目の前にお皿を並べた。
「チャーハン?」
私の隣に席を移ったマルベニ女史が、オムライスを期待してたのにと頬を膨らませた。
私もてっきりオムライスが出てくるのだと思っていたので首を傾げた。
けれど湯気立つ温かい焼き飯(チャーハン)はとても美味しそうで、早く食べたかった。
彼は三人分のグラスに水を注いで、私の向かいに腰を下ろした。
「いただきます!」
「い・・・いただきます。」
マルベニ女史の勢い良い掛け声に圧倒されながらも、私も続いてスプーンを掴む。
作った人は、目の前で食べてる人の様子をうかがっている。
はふっ、熱い。
「・・・美味しいです。」
「良かった。」
にっこり笑って自分も食べ始める。
「あの、」
「ん?」
「オムライスするんだと思ってたんですけど、どうして焼きめ・・・チャーハンにしたんですか?」
少し気になっただけの、特に意味はない質問。横から女史もそうそう、と頷く。

「あれ?だって、ふみケチャップはトマトの味がするから嫌いだって」
言ってなかった?と首を傾げられたけど。
「それ、小さい頃の話で今は大丈夫・・・なんですけど・・・なんで知ってるんですか?」
そんな小さい頃のこだわりを・・・。
誰にも言った覚えはないのに。


どうしてそんな涼しい顔で、さも当然のように私の過去を知ってるの?
アナタだあれ?
この人、本当に、ダレダロウ・・・?







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