12.ときめきの導火線
「ふみ、ただいま!」
扉を開けるなり私に笑いかけて、一直線に近づいてくる。
「お・・・おかえりなさい・・・・・。」
自分の家じゃないのに誰かを出迎える言葉。すごく違和感があって、もどかしくも恥ずかしい。
「マルベニに何かされなかった?」
髪を梳かれながら聞かれた。時折、指が耳に触れて熱を生む。
やだ、きっと真っ赤な顔してるんだろうなあ、恥ずかしい。
「ま・・まるべにさん?ナンデスカ?社名ですか?」
それは版権に引っかかりませんか?伏字にしたほうが良いですか?
やだやだ、真っ赤な顔は見られたくないのに、俯くことを許さないこの人の手が、厭わしい。
けど、心地いい。
変なの。
「そこに居てる”美人秘書サン”っぽい人。内丸紅子さんだからあだ名はマルベニさん。」
ああ、それで。どっかの社名と掛けてるのね。
っぽいって・・・、美人秘書サンじゃないですか。
「あれ、ふみ何持ってるの・・・?って、僕のエプロン?」
私の右手に握り締めていた青色を彼が気付いた。
うわっ。ずっと持ってたなんて、握り締めてたなんて。
「ちっ・・・違うの、紅子さんが持ってきたの!私には必要ないから、返すの!!」
グッと彼の胸元に向かって青のエプロンを突き出した。
もう、何が言いたいのかよくわからない・・・。
「ちょっとー、いちゃこらしてないでさ、腹減ったんだけどー。」
天の助け!!!!!
お姉さま、私は貴方について行きます!!
「あんたなあ・・・、家に帰れ。」
気が削がれたと言わんばかりに眉間にしわを寄せて、彼は紅子さんをにらみつけた。
「嫌よ。私はひふみちゃんの手料理を食べるためにここに居るんだから。」
「はい!作ります!!!何しましょうか!?あ、オムライスでしたね!!!」
もうこれ以上触られてたら心臓がパンクする!
「わー、オムライス〜。」
紅子さんのにこやかな声と手を叩く音を背に、そそくさと彼の手から逃れてタマネギを拾い上げた。
「ふみ。」
その手を大きな手が掴む。
ぎゃっ。
前を見ると彼の顔。胸ポケットに銀縁の眼鏡が見えた。
僅かな既視感。
けれどそれは莫大な緊張に、瞬く間に飲み込まれた。
「いい、僕が作るから。ふみの手料理をマルベニなんぞに食べさせるわけにはいかない。ふみの手料理は今度僕が頂くよ。」
にっこり笑ってキッチンから私を追い出した。
ダイニングテーブルの椅子を引いて、私を座らせる。向かいには頬杖をついて私達を眺める紅子さん。
不意打ちで、後ろからほっぺにチュー。
ひっ、人前で!!!!!
ストレートな好意に私は戸惑う。
どうしてこの人は、私をこんなにも大切に扱うのだろう。
独占欲丸出しで。
こんな扱いを受けたことがないから、恥ずかしくて、うっとうしくて、緊張する。
けど、なんだか嬉しい。
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