第9話
なんなん?なんなん?なんなんなーーーーーー!!!!?
もうもう、なんやのあの人!!
いいいいいいい・・いきなり・・・ちゅ・・ちゅうなんぞしよってからに!!
ウチは平素とは違う足腰で、フラフラとなりながらも尚ちゃんらのおった場所へ戻ろうとする。
尚ちゃんは待っててくれてるやろか。
もー、今すぐ尚ちゃんの胸に飛び込んで慰めてほしい。うわーん、わけがわからん。
せやけど戻ったら尚ちゃんはじめ見家も田中もおらんかった。
ウチが居らんのをいいことに、見家つれてさっさと退散しよったな〜!友達甲斐のないやっちゃ。
まあ、せやけどこんなヘロヘロなってんのに帰ってきて早々根掘り葉掘り詮索されんのも困るんやけどな。そう思たら尚ちゃん、見家連れて行ってくれて正解なんかもしれん。
・・・とりあえず、帰ろう。
ウチは足取り重く、ヨロヨロと岐路に着いた。
疲れた・・・尚ちゃんとご飯食べる約束やったんに〜〜〜。
次の日。
「おはよう〜〜〜、大和〜。」
含み笑いを浮かべて尚ちゃんが近づいてくる。
キョロキョロとまわりを見回してからウチの前に腰を下ろした。
「うん、もう大和ったら水臭い。」
肘でウチの身体をつついてくる仕草は、冷やかす気満々のオーラが漂ってる。
「昨日は知らない振りしてたんだよね〜。それでカレシの話してる所へ当の本人がきたもんだから、恥ずかしくって逃げ出しちゃったんだよね〜〜。」
何のことやとは思わん。ウチも流石にそこまで勘が悪ない。
何を言うてるんや、ウチにカレシなんぞおらんのは尚ちゃんもよう知ってるはずやろに。
眉間を寄せて否定の言葉を出そうと思った。でも、ちょっと待て。
今なんて言うてた?カレシの話してる所へ当の本人がきたとか云々・・・。
いつあの人の話なんかしてたんや。ウチはそんなこと憶えてないで。
「尚ちゃん、私達いつあの人の話なんてしてたっけ?」
首をかしげてホンマにきょとんとしてたんやろか、今度は尚ちゃんが怪訝に眉間を寄せた。
「してたじゃない、ちょうど直前に。ホラ、ウチの大学院で建築学を専攻してるお金持ちの息子のスミクラトモミさんでしょ?」
「え、あの人そんな名前なの。」
「え、知らないの?」
完全に話が噛み合ってなくて、しばらく沈黙がおりた。
なんか話してたなー。女の人と違うかったんや。あのお兄ちゃん、スミクラトモミ言うんか。
・・・・・・・そんな名前やったかな・・・・・・・?
「なんだ、カレシじゃないのか。」
尚ちゃんはぼりぼりと頭を掻いてウチの前から立ち上がった。
なんか知らん間に誤解が解けてるわ。ラッキー。
「カレシだったら知り合いでも紹介してもらおうかなーって思ったんだけど、カレシの名前知らないなんてあり得ないでしょ。」
ああ、なるほどね。
「大和はすぐに顔に出るから、嘘ついてたらすぐばれる。」
尚ちゃんは「それじゃー男は騙せんよ、キミィ。」と口角を上げてのたまった。男なんぞ騙さんよ、尚ちゃんじゃあるまいし。
「カレシじゃないけど、知り合いみたいだよね。ね、ね、どこで知り合ったの?紹介してぇ〜〜。」
猫撫で声つこてもウチには効かんぞ。しかも知り合いでもないわ、紹介すらでけんで。
「名前も知らなかった人を知り合いと言っていいの?紹介できるような関係にもいってないんだけど。」
・・・ちゅーはされたけど。
おおおおう、思い出して顔が赤くなる。おさまれーー、おさまれーー、昨日の記憶よおさまるのだ。
「なんだー。それじゃ、カレシになったら紹介してね。」
ぶ。
「なんでそーなる!?」
尚ちゃんは含み笑いをしながら「だってぇ、」と身を翻す。
「気になる人なんでしょ?そーゆー意識ばりばり出てたよ。」
そう言い残すと教室に入ってきた見家に直進していった。遠くで「見家くぅ〜〜ん」と、さっきの尚ちゃんのどっから声が出てるんやと思わせるような、媚び媚びの声やった。あんた、そんなんやから同性に嫌われるんやで。
スミクラトモミ。
ウチの大学院の建築学を専攻してて、建築関係のコンクールで賞をいっぱい取ってるとかなんとか。
ほんで実家はものすごいお金持ち。
はぁ〜〜〜〜〜〜。
溜息しか出ん。
ホンマに、ホンマの、住む世界の違う人やったんや・・・。
我知らず、唇に手が伸びる。
昨日の感触は、思い出そうと思えば簡単に鮮明に蘇るはずや。
けどウチはそれをせん。
尚ちゃんの言葉も蘇る。「カレシになったら」云々。
もお、なんか、ホンマ頭ん中ぐちゃぐちゃで、あの人の笑顔が物凄い遠くに思えた。
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