第二話


「ねえ、ボク。どうかしたの?今日はお母さんと一緒にに来たのかな?それともお父さん?それともお腹でも痛いのかな?」
いきなり大阪弁を使えば警戒されることは必至なので、ウチは身につけた東京弁で近づいた。
なるべく、できるだけ、子供好きするような優しそうな笑顔で近づいたつもりやったけど、いきなり知らん人に声掛けられたら嫌でも警戒するわな・・・。
思いっきり怯えた顔をされて、ウチもブロウクンハートや・・・。
子供よ、ウチはただカワイイきみと仲良くなりたいだけなんよ。
「ごめんね、知らない人に声かけられてビックリしたね。アタシは沢柳大和といーます。見家山雄っていう人のお友達なんだけど〜〜・・・って知ってるわけないよね、見家さん。」
外堀から埋めていく作戦で喋ったけど、ウチの知り合いの見家がこの子の知り合いやとは限らんわけやし、第一子供にそんな作戦は通用せんということに思い当たり、語尾は歯切れの悪い尻すぼみ・・・。
「なんだ、おねえちゃんは山雄叔父の彼女か。」
うわ、通じた。
見ると子供はさっきの怯え顔はどこへやら、眉根を寄せてウチを睨んでた。
目の前の子供は、どこからどう見ても子供スーツを着たこましゃくれてるけど4〜5歳のちんちくりんの子供。
なんでウチは睨まれなアカンねん。
「えー・・・と。山雄さんはキミの叔父さんなん?ウチは別に彼女とちゃうんやけど。」
そこは子供といえどもハッキリさせとかなアカンねん。どこでどう誤解を生むかわからんし、絶対に誤解になっては嫌やねん。
つい力んで地を出してしまった。
ポカンと子供はウチを見上げたけれど、次の瞬間振袖をワシっと掴まれた。
皺になるがな、着物のクリーニングは高いねんで。
「おねえちゃん、おおさかべん喋れるの?サソーのおじちゃんみたいだね。サソーのおじちゃんもそういうの喋るんだ。ぼくも喋りたいよ。」
うーん、子供マイペース!ウチの質問に全く答えてくれてない!
見家の彼女と思われてるんは嫌なんや!
「ちょい待ち、あんたが喋りたいんはよう分かったから、ウチの話を聞きなさい。」
引かれる心配はなくなったので、むしろ喜ぶようなので、地で喋ることにした。はー、らくちん。
「うん。」
なかなか素直でよろしい。子供は素直が一番や。かわいいかわいい。
「よっしゃ。ほなな、ボクの名前教えてよ。おねえちゃんは沢柳大和、やまとて呼びよし。」
「うん。やまとねーちゃん。」
かっっっわいい・・・・。
なんやこの子、実はめちゃめちゃ可愛いんやん。素直やし、顔も可愛いし、将来楽しみやなー。
頭ぐりぐりしてやりたいわ。
「ぼくの名前、つるたかし。山雄叔父はおかあさんの弟。」
「ほう、あんたは見家の甥っ子か。似てないな。」
正真正銘の血縁者やったようで、凄い確率のめぐり合わせや。せやからと言って、見家と縁があるわけではない。
「ほな、サソーのオッチャンは?それもあんたの伯父さんかなんかか?」
「ううん、違う。サソーのおじちゃんはお父さんのとりひきさきのしゃちょうさん。すっごく面白いおじちゃんで、やまとねーちゃんとおんなじの喋るんだ。もっと声が大きくて、ガハハハハって笑うんだよ。ぼく大きくなったらサソーのおじちゃんにでしいりするんだ。」
ふー・・・・・・ん。
まあ、実はあんまよう分かってへんねんけどね・・・。この子と仲良くお話できるだけでウチは満足やねん。
どうもサソーのオッチャンとやらは大阪の人のようで、このお坊ちゃんの尊敬する人なわけね。
「弟子入りかー、たかしはサソーのオッチャンに何教えてもらうんよ。」
「うーんと・・・。かいしゃけいえいとか、けいざいさんぎょうとか、かぶとか。あと、一緒にしょうだんするんだ。」
うーん。ウチもようわからんで、政治経済は不得意分野や。
「たかしは大きくなったら会社を経営する社長さんになるんやね。」
「お父さんのおしごとをお手伝いするんだ。」
げ。この子のオトンはシャチョーサンでっか。どおりで子供スーツをパリっと着こなすたかしもそこはかとないノーブルな匂いがするわけや・・・。
あんたは大きくなっても素直なままでいてや。その辺の鼻持ちならん放蕩息子になったらあかんねんで〜。
「やまとねーちゃん、サソーのおじちゃんが『でしいりするならむこよーしにこい』って言ってたんだけど、むこよーしってなに?」
う・・・純粋な目で聞かんとってちょんまげ。サソーのオッサンもなんちゅーことを子供に吹き込むんや。
有能そうな子供に唾でも付けとんか。
というか、そのオッサンいくつやねん。たかしに婿養子って、子供おるんか?子供いくつやねん。
「・・・・・サソーのオッチャンとこの子になりなさいちゅー話やな。・・・たぶん。」
間違ってはない。
結局はそうなることやから。な!


その後ウチはたかしと延々話をしていた。
もっぱら出てくるのはサソーのおじちゃん。よっぽど凄い人なんやということは、子供の熱弁からでも見て取れる。
ちょっと会ってみたいと思ったのは、どうやら同郷の人らしいから。




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