第一話


今まで自分は平凡やと思って暮らしてた。
小さい頃は大阪に住んでいて、高校に入ろうかという時に親の転勤で関東に来たけれど、それもよくある普通の話でしょう。
東京弁を喋る群れの中、独りで大阪弁を喋っていられる勇気もなくて、標準語なるものを話す術を身につけた。
まあ、ウチにとったら大阪弁が「標準語」なわけやけど。

普段は東京弁を喋ってて、ふとした瞬間に大阪弁が出てしまうことがあるらしく、目ざとく指摘されては嘲笑の対象にされたこともある。
あの時は屈辱に打ち震えたものや。今でも同じ状況になったら相手に手を出さん自信はない。
けれど持ち前の明るさで、総スカンを食らうこともなく、それなりに仲の良い友達にもめぐり会えたし、こんなウチでも好きやと言う子も中にはいてた。

見家もそういう一人で、転校してきたウチの隣の席になって以来、あれやこれやと世話をやいてくれる友達や。
他にも大勢いてる友達の中で、異性やったら見家が一番仲良しなんかもしれん。
せやから見家が家の仕事の関係で、パーティがあるから来ないかと言うた時、ウチを介してみんなを誘ったんやと思った。
連れ全員が興奮して見家に飛び掛っていったが、見家は後でウチにウチ一人を誘ったんやと告白まがいに怒った。
ウチはびっくりして、その時初めて見家の気持ちを知った。
あくまで告白まがいであったので、見家も自分がハッキリ気持ちを伝えたとは思ってないはずで、ウチも気付かん振りをした。

パーティなんや想像もつかんで、何着て行ったらええんかって女子グループではしゃぎまくった。
結局は大学生やし、まだ十代やしで、成人式用に揃えてるはずの振袖をみんなでそろって着ていこうという話で決まった。
未知の世界に心細くて、みんなで着るもんそろえましょ、と着付けの予約を美容院に入れて、準備は万端。
あとは寝て起きるだけ。

けどウチらは甘かった。
見家んちをなめていた。



会場は都会のど真ん中に建つ、でっかいたっかい、ついでに格式もお高いおホテル様。
居たはる人は偉そぶったオッサンといけ好かんオバハンばっかりで、ギラッギラとした世界やった。
アカン、ここはウチのような庶民の来るトコやない。瞬時にそう判断したウチは別世界にはしゃぐツレを余所に楽しむ気はゼロやった。
ただひとつ思うことは、変にオシャレしてドレスやなんや着てこーへんで良かったということ。
うちらの金銭感覚では、ここに居る人からしたら、どんな高級な代物をまとっても安っぽい、野暮ったいものにしか見えんのやろう。
振袖かってエエもんを知ったはる人からすれば、うちらの着てるものなんか鼻で笑っちゃうくらい安物かも知らん。でもまだ華やかさがある分、見た目ではマシなんかも。

それにしても見家の家は一体何をしてる家なんや。
出入り口のプレートには、有名な「つるみや商事」という会社の本社ビル完成記念パーティとか書いてあったような覚えがある。
ちゅうことはやな、見家の家はそのつるみや商事となんぞつながりがあるんやな。
見家って実は金持ちの坊んなんやなあ。
ますます見家には深入りしたなくなったなあ。

しかしウチの興味はすぐに違うものへと移る。
会場の隅っこ。
場違いはなはだしい小さな子供。
壁を背にして大人にうもれる姿はむしろ人の目を引く。
一丁前に子供スーツを身にまとい、俯く姿にキュンとなった。
実はウチ、むちゃくちゃ子供好きやねん。早速かまいに行くとしよう。




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