第十四話


「あんたホンマええなあ。うちとこ嫁に来るん、本気で考えへん?」
じっとりと下からすくい上げるような眼差しで、サソーのオバチャンが言うた。
実の所、この家は大阪色が強いので、カカア天下は当たり前。尊はおっちゃんのことを凄い人のように言うてたけど、実際会ってみたらオバチャンの方が圧倒的で、おっちゃん霞みがかってるよ!!
ウチのこと気に入ってくれたんはありがたいんやけど、ウチの何がこのオバチャンの琴線に触れたんかはよう分からん。
「いい食べっぷりやし、笑ろたら可愛いし、よう気ぃ利くし、大阪の子やし、笑いも分かってるし。」
ガッチリと両手を取られて身動きがとれへん・・・。
最後の方に情熱を感じましたが、ココの家の嫁姑は上手くいってないんか・・・?
そういう宛て付けめいたことをするのにウチを巻き込まんで欲しい。お嫁さん可哀相やんか。
(はじめ)のお嫁さんも悪い子やないんよ、よう気ぃ付くし。ただなあ、笑いのセンスが違うんや。」
長男さんのお嫁さんが食後のお茶を淹れに行ってる間にポショっとこぼされた。
笑いのセンスが違うんは致し方ないし、ウチに言われてもなあ・・・。困る・・・。
「アンタが嫁に来るんやったら、オレが嫁に貰うわ。」
オバチャンと話してたら、隣にドスンと胡坐をかいて腰を下ろした人。
「あ、コレ四男の四良(しろう)な。」
「今年23歳です〜、よろしく。」
「はあ。」
ウチはなんとも気のない返事。
適当に返事しといたったらええやろ。冗談やろし、愛想やし。
割りかしカッコええけど、今はウチあの人の事忘れられへんしなあ・・・。
ふとスミクラ氏のことが遠い昔のことのようにも思えておかしかった。
きっとこの家が賑やかすぎて慌しいからや。
「あんたより2コ下やけど、あれは五男のいつむや。あっちは次男の久二彦、えーとアンタいくつやっけ?。」
「28や。」
息子さんを紹介されてて、若干本気っぽい雰囲気が漂ってる・・・?
内心冷や汗なんですけど。
「そういえば、トモはどしたんや、あの子。ちょっと、クニちゃんトモ知らんか?」
次男さんが人前で子供の頃からの愛称を呼ばれて母親を睨んだ。「クニちゃん言うなやオカン」って前置きしてから口を開く。
オバチャンは言いっぱなしでウチの方へ向いて「トモはな〜」と話し出す。
息子はいつまでもオカンに勝たれへんねんね、おっかしー。
「トモは午前中ガッコや言うてたがな、もうそろそろ帰ってくるんとちゃうか。」
トモはここの家の三男やとオバチャンが言うたところで。
「ただいまー。」
「ほれ、噂をすればや。」
遠くの方から聞こえた帰宅の挨拶に、板の廊下を踏みしめる音が徐々に近づいてきた。
「やまとさん、トモ兄帰ってきたよ。」
今まで長男さんの赤ちゃんをふにふに(いら)ってた尊がウチの傍へ来て、これから開かれるであろう障子に視線を移した。
『トモ』とかいうのがどないしたんや?・・・トモ?
あ・・・!

と思ったときには障子は開いて、件の『トモ』はウチを見下ろしてた。
一瞬目を見開いて、不敵に笑う。
ヤバイ、いい顔や。
「オレに会いに来てくれたんか、沢柳さん。」
そない調子ええこと言うたら反発してまうがな。そんなわけないやろとか、言い出して、ドツボにはまりそうやから、ここは何も言わんに限る。
「なんやアンタら知り合いか。」
オバチャンが目を丸くしてウチらを交互に見てた。おっちゃんも、息子さんらもうちらの事見てる。
注目を浴びるのは居心地が悪くて、ウチはただ俯いてるだけで。
「オレの彼女。」
言うと思った言葉にただ溜息しか出てこん。オバチャンは嬉々として三男の背中をバチコンと叩く。
ぐっ・・・ってくぐもった声が聞こえたけど誰も気に留めん。日常茶飯事なんやと思った。
「なんや〜、トモの虚言か〜。」
「でも、トモの好きそうなタイプではあるよな。」
ウチの後ろで四男さんと五男さんがヒソヒソ話す。ご兄弟はちゃんと嘘偽りを見抜いてくれているようで。
はあ、好きそうなタイプでっか。そうでっか。はあ。
オバチャンにも聞こえてたんか、もう一回バチコンと背中を叩かれた三男さんこと『スミクラトモミ』は、ヒリヒリするのであろう箇所をさすりながら、ウチの元へ近づいてきた。
畳の部屋で、皆思い思いに座ってるから、帰ってきたばかりの三男さんは座敷を見下ろす形になってるわけで、ウチのことも見下ろしてるわけで。
「なに。」
ああん?見下してんの?
「佐想家へようこそおいでくださいました。ボクは三男の佐想友三です。」
正座して頭下げられた。
「こちらこそお邪魔しています。沢柳大和と申します。」
礼には礼をもって返さんといかん。ウチも居住まいを正して、正座をして頭を下げた。
しかし・・・。
「・・・さそう・・・???」
首をひねりながら顔を上げたところで、目の前の人と目が合った。
ウチの眉間に皺が寄ってるのを見て取って、不思議に小首を傾げた。
「・・・・・・・すみくら、ともみさん。」
指差して確認した。指された本人は自分のことか?と、自らを指差す。ウチは頷く。
「なんでアンタがその名前知ってるん?俺確かアンタに佐想って自己紹介したと・・・思ってんけど?」
「『すみくら』は友達に教えてもらった。自己紹介とか憶えてへん。いつしました?そんなん。」
「ひどい・・・。」
エエ大人が顔を両手で覆ってシクシクと泣くな、うっとおしい。うそ泣きすな!
渋面を作って暫く待ってると、指の間からウチの顔色を伺ってるのが分かった。
「『佐想』やったら実家のことがばれて心無いチンピラにたかられるから、母親方の名字を使って学生生活を送っておりますねん。だから普段は『角倉友三』と名乗ってる。アンタには、本名教えた。」
あの時叫んだ。
そういえば。
『ボクは佐想友三!!』
言うてましたな。
「ほんで、何べんも言うようやねんけど。」
また。

「俺と付き合ってくれへん?」

・・・・・・・・・・。
「もうちょっと、人の居らん所でお願いしますわ。」
家族の前で、恥ずかしいことないんかな、この人。




+++ +++ +++ +++