第十三話
ウチは今、ある意味別世界に来ています。
突撃!豪邸訪問。
休みの日に尊の家の車でお迎えしてもろて、エエ車乗るんも初めてやのに到着したお宅はこれまた凄かった。
尊の家よりある意味凄い。
尊の家は市の文化財っちゅーくらいの古い洋館で、大きさはそこそこやけど造りが細部まで凝っていて、それはそれは昔の大工さんの『エエ仕事』なんやと思わせた。
この家は・・・。
文化財っちゅーか、結構新しそうやから文化財とは言えんけど、あ、いや、ある意味文化財・・・?
うーん・・・平等院鳳凰堂?
10円玉の裏っちょに描いてあるやつ。
中庭とは言えんくらいの大きい庭は、サラサラ小川が流れてるし。ウチはいつ宇治に来たんやろうなあ、あははうふふ。
小川には太鼓橋が架かってるし。平安時代の人はこういう小川に上の句書いた短冊流して、川下にいてる人が下の句作るんやっけ?そんなんテレビで見たことがあったよーな、なかったよーな。
「やまとさんこっちだよ。」
尊にスカートの裾を引っ張られて我に返りました。
あまりの現実離れした衝撃に、なかなか帰ってこられへんかったわ。
いやいや、コレは正に凄いの一言に尽きますわ。こんな大豪邸(と呼ぶにも常軌を逸してる)を建てるサソーのオッチャンに会いに突撃隣の昼ごはんをしにきてるわけなんですが。
こんなとこで出される昼ごはんなんか、超庶民のウチの喉を通過できるか甚だ怪しい。
延々と続く廊下を歩くこと数十分。家の中やのに移動ごときで何でこないに時間がかかるんや。
従業員さん(家を維持すんのに人雇ってるんやて!)の後ろを付いてきてたウチと尊は、従業員さんが止まったから同じように止まった。それは一室の障子の前で、きっとこの中にこの家を建てた人がいてるんやと予想した。
うっっっっわ。どどどどどうしよう〜〜〜。なんか、ききききき緊張してきた・・・。
怖いオッチャンやったらどーしよ。でもお昼一緒に食べようて言うてたそうやしなあ。でもこんな家に住んでるんやし、金持ちで高慢ちきやったら気ぃ悪いわ〜〜。っちゅーか、この家落ち着かんわ〜〜。
「オッチャンオバチャンこんにちはー。」
そわそわしてるウチの横で、尊はさっさと開かれた障子の向こうに入っていった。
待ってよ、置いて行かんとって。慌ててウチも中に入る。
そしたら・・・。
「ラッハァーーーーン!!」
巨大な椎茸の様な頭のオバハンが目の前に立っていた。
謎の言葉とともに巨大な頭が近づいて、オバハンはカッと目を見開く。
「い・・・・インガスンガスン・・・・」
近づく椎茸頭に気圧されて若干しどろもどろになりながらも、たぶん求められているであろう言葉を返したら、オバハンは更に目を見開いて叫びをあげた。
「おとーーーーーちゃーーーーーーんんんんん!!!!!!!」
「おお!なんや!!」
オバハンの呼び声とともに奥のふすまがスパンッと小気味良い音を立てて開かれた。
出てきたのは金ぴかの背広に首が隠れるほど大きい蝶ネクタイを付けた大きいおっさんで。
「お父ちゃん、この子は合格や!」
「おお!ホンマか!!アンタどこの子や。」
凄い勢いでまくし立てられて、この中年夫婦はなんちゅう落ち着きのなさや。
「大阪です・・・。」
たぶん出身地をたずねられてるんやと思って、望みの回答を差し出したら更に中年夫婦の勢いは増した。
「大阪か!やっぱり同郷やないとアカンわ。アンタうちとこに嫁に来んか?」
「そやそや、長男以外やったら空いてるで。アンタみたいな笑いのわかる嫁が欲しいんや〜。」
「オレの嫁が笑いの分からん女みたいに言うなやオカン。」
椎茸オバハンのぼやきを合図に奥のふすまからぞろぞろ人が出てきた。うわお!
眉間に皺を寄せながら赤ちゃんを抱っこした女の人を連れ添って出てきたのは眼鏡のおにーちゃんで、たぶん30歳くらい。隣は件の嫁と見た。長男の嫁か、椎茸オバハンと折り合い取るのは難しそうやな。
「そやかて兄ちゃん、一人で笑いのツボがずれてるんは可哀相やで。」
後ろからウチと同い年くらいの男の子がひょっこりと顔を出した。
「お前もこないだ、みんながおもろない言うてるギャグで笑ってたやないか。」
男の子とよう似た、ウチよりもちょっと年上の男の人が現れて眇めた視線を男の子に送った。
「沢柳さん言うたかな。」
『おぼっちゃま』のような金ぴか背広の大きいオッサンがウチに笑いかけた。
「よう来はった。おっちゃん、佐想源五郎いいまんねん。アンタのことは尊からよう聞いてるよ。まあ、ゆっくりしていき。」
「そやそや、お腹すいたやろ。これからみんなでお昼ご飯食べるから、あんたも一緒に食べよし。」
あー、首痛い。と言いながら椎茸オバハンは頭から椎茸様のカツラを引っこ抜いた。
あれ、なんや。いっつも被ってるんと違うかったんか。おっちゃんも横山たかし風背広を暑いと言いながら脱いでた。
まあ、夏やし暑いでしょうよ。しかもオッサンは汗かきやしな。
平等院鳳凰堂やと思ってた家は外側だけで、人間が住んでるんは一角だけらしい。
なんとまあ贅沢な、と思わんくもないんやけど、建てた本人は「見栄とウケ狙いや」やって。
見栄はいいとしても、ウケ狙いで文化遺産並みのもん建ててまうその経済力が、やっぱり半端やない金持ちなんやと思う。
夏のお昼ごはんは絶対コレやねんやろうなあ。特に大勢で食べる時に多くない?そうめん。
お中元にようさん貰うんよねー。毎日飽きるほど食べさせられるねん・・・。うえっ
嫌いやないんやけど、すぐ飽きるしな。
でも揖保の糸とか三輪素麺とか高級品でないとそうめんは美味しくないよ!!
さすが大会社の社長さん宅だけあって、良いそうめん使ってはる。美味しゅう御座います。
大きいたらいに氷と共にたゆたうそうめんと、たらいを囲むように置かれる薬味の数々。
各々にそうめんつゆが配られて、おっちゃんの号令によって昼食が始まった。
思い思いに発せられる言葉は、重なりすぎると騒音でしかなくて、騒がしい雰囲気が広いはずの座敷をどこか狭く感じさせていた。
数えてみると、大人子供合わせて総勢10人。
大きいはずのお膳はそうめんの入ったたらいやら、薬味の小鉢やら箸やらつゆの椀やら、そうめん取る腕やら誰かが茶をこぼしたやら、薬味取ってくれやらでえらい賑やか。
いいなあ、こんなお家。
ウチの家も仲良し家族やけど、4人だけの核家族やし、女兄弟やしいつかは別れ別れになってしまうんやし。
大人になってからは家族の生活リズムが各々マイペースになって、こんな休日の昼日中に家族そろって食卓を囲むなんて久しくやってへん気がする。
一般家庭でもやってへんことを、お金持ちのこの家はやってるんや。
すごいな、仲良し家族や。
おっちゃんもおばちゃんも、大会社の社長とか言う雰囲気全然ないし、鼻にかけたところもない。
息子さんらもめっさ気さくやし、人見知りもせんし。
笑顔の絶えん、良い家庭。お金持ちやのに、うちらの家庭となんら変らん。
ココのお家やったらお嫁にきてもいいかもなあ。
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