朝議の席で王子サイアンは、大臣らの報告を眉をしかめて聞いていた。
「馬鹿馬鹿しい。わが国にそのような下らない理由の為に舞踏会を開ける余裕があると思っているのか」
これ以上は議論するのも無意味とばかりにサイアンは椅子から立ち上がって出口に向かった。
しかし大臣たちは何が何でもこの企画を通さなくてはならないのだ。一同サイアンの下半身めがけてタックルを繰り出せば、出口に到達する前にサイアンの体は10人の大臣らと一緒に床に倒れ伏した。
「放さんか!!」
老人どもに抱きつかれては正常な成人男子なら当然嬉しくないに決まっている。怒りもあらわに怒鳴り散らすと、大臣の一人がしわくちゃの手で分厚い企画書をサイアンに差し出した。倒れたショックで手が震え、鼻水も出していた。
企画書の表題には『国王陛下、お風邪全快おめでとう企画。ウハウハ美女群がれ!明日の王妃は君だ!舞踏会』と書かれてあり、サイアンの父である国王も協力して数週間前から仮病を使ってもらっていた。
表向きは好色国王の全快祝いのようだが、サイアンに気付かれない為の隠れ蓑だ。もちろん真の目的はサイアンのお妃選び。彼が否応なく妃を迎えさせるための計画なのだ。
題して『王太子殿下も年貢の納め時!妃も迎えてついでにお世継ぎまで作っちゃいましょうよ作戦!』
サイアンが知ったら、その裏題も含めて企画した大臣たちをことごとく打ち首獄門の刑にしてしまいそうな馬鹿さ加減。もしかしたら怒りを通り越して脱力してしまうかも。
「父上はお喜びになるかも知れんが……」
なおも渋るサイアンに、今度は財務担当の大臣が倒れたままで指を鳴らした。
すると湧いたように財務大臣補佐官が現れて、計算機を弾きだす。
「殿下のご心配は無用にございます。今年は天候にも恵まれ、どの領地も豊作との報告があがっております。納税額は例年より3倍上がっておりますれば、これから先に不作が起きましても各領地での備蓄で乗り切れるかと思われます。加えて昨年末、南東のペイル山で金脈が発見されております。今年に入って採掘も始まっておりますので更に国庫は潤うかと。今現在三日三晩舞踏会を開きましても国庫になんら影響は及びません」
きっぱりと言い切った財務大臣補佐官は一礼してどこへともなく消えていった。
サイアンの足にしがみついた大臣たちは、観念しろとばかりにサイアンが是と頷くのを待っている。
「しかし、たかだか風邪が治ったくらいで……」
なおも渋るサイアンに、10人の大臣たちは一斉に玉座に向かって目配せをした。
「のお、サイアン。老い先短い父の頼みを聞いてくれぬか。わしも独り身になって久しい、そろそろ老後を美女と一緒にウハウハしたいのだが。わしが幸せだと、きっと亡くなったお前の母も喜ぶと思うぞ……」
「陛下……」
じーんと感動の涙を流したのは10人の大臣。
サイアンは青筋を浮かべて震えてた後、濃紺の髪を振り上げて父王に怒鳴りつけた。

「母上はまだ生きております!!!父上の浮気に愛想を尽かしたんでしょうが!!!第一、父上はまだ40歳でしょう!どれだけ早死になさるつもりですか!」

そんな必死の怒りも、老人10人を下半身に引っ付けた体では可笑しくも空しい。


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