むかしむかし、どこかの世界のアズーリという国に結婚適齢期を迎えた王子様がおりました。
王子様は王様の後に国を継ぐ高貴な身でしたが、それゆえに大臣たちからは早く妃を娶り世継ぎを作るように見合いを迫られていました。しかし王子様は大臣たちの度重なる見合い攻撃にも「興味がない」の一言で一蹴してしまい、全くとり合いませんでした。
大臣たちは内心舌打ちをしながら引き下がりました。けれど諦めたわけではありません。
長年、王宮で狸や狐相手に腹の探りあいをしてきたのですから、若い王子様なんかよりも悪知恵だって忍耐だって秀でています。虎視眈々と機会をうかがい、自分の利になる姫と娶わせようとしているのです。
もちろん大臣たちは自分たちの姫を一番最初に紹介しました。大臣たちには実の娘も親戚の娘もたくさんいますから、今年がだめでも来年が、来年がだめでも再来年が、毎年毎年手を変え品を変え王子様に姫を紹介するのでした。
その度に王子様はチラと見ただけでそっぽを向いてしまいます。
大臣たちの娘の中でも厳選された見目麗しい姫君たちを、王子様は「興味がない。」と断ってしまいます。
こうした攻防が何度も何度も繰り広げられ、5年が経ってしまいました。
このままではいくら王子様の国が大陸の中でも5本の指に入るほどの強国でも、王子様に嫁の来手がなくなります。それどころか王子様が枯れてしまいます。ついでに大臣たちも老いさらばえてしまいます。
これは困ったと大臣たちは頭を抱えて円卓を囲みました。
今まで何度もこうして円卓を囲み、王子様が心奪われるような美しい姫や妃として申し分ない知性と教養を持った姫、国母の務めを恙無く果たしてくれそうな健康な姫を選出しあっていました。
しかし今回ばかりはいつも以上に気合が入ります。最後の決戦とばかりに大臣たちはいかめしい顔をそろえて唸ります。
「やはり殿下の好みから洗い直したほうが良いのではないか」
「しかし殿下の初恋からすると、色白黒髪の小柄で瞳のパッチリ開いた可愛い系であることは明白ぞよ」
「うむ、その後も同じような姫君にお会いになると頬を染めておられた。あの頃の殿下はまだ初々しい少年でしたからな。お懐かしい」
「今はあの頃の面影などなくなってしまわれて……。わしらの顔を見ればうっとおしそうになさるんじゃ」
よよよ……と大臣たちは円卓に泣き崩れました。昔の殿下は可愛かったのに……とむせび泣きます。
しかし一番若い大臣が円卓に拳を打ちつけ一喝しました。
「昔を懐かしんで泣いている場合ではございませんぞ!」
それを聞いて他の大臣たちは慌てて顔を上げて目尻の涙を拭いました。
「おお、そうじゃ。今日はなんとしてでも殿下が結婚すると言うてくれる方法を考えねば」
「この際、私利私欲にこだわっていられぬぞよ。他国の王女も視野に入れなければならんぞよ」
「それでは大々的に舞踏会など開いてはどうでしょう」
「舞踏会とな」
「なるほど、大勢の姫君とお会いになれば殿下も色気づいてくれるだろう」
「いやいや、どさくさに紛れて既成事実まで作り上げてしまえば殿下も観念なさるでしょう」
大臣たちはそれぞれウヒヒと悪そうな笑顔を作りました。
そんなことは露も知らない王子様は原因不明のくしゃみに悩まされるのでした。


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