仮初のつがい鳥
1−1
 学校から帰ってくると、リビングのローテーブルの上に見合い写真が山ほど積まれていて、
「さあ、どれが良い?どの方も将来有望な方ばかりよ」
と母親が笑顔で言う。
 稔は学校指定の鞄を肩から下ろしながら、母親の隣に腰掛けた。
「どれが良いと言われましても、私はまだ中学生ですが、お母様?」
そう言いながらも積まれた写真の一つを開いて目を通す。
「何を言ってるの、もうすぐ卒業するでしょう。貴方、お誕生日は夏ですからね、16歳になったら結婚するのに今からお相手選びじゃ遅いくらいよ」
「はあ、そうですか」
 稔はさほど驚かない。自分が16歳になったら、どこかの誰かと結婚することは、幼い頃から決められていたことだった。
上の姉も下の姉も、同じように16歳で結婚させられ家を出ている。
いずれも相手は資産家や企業経営者で、稔の家が経営する会社の取引先であったり投資家であったりした。
「ママね、この方なんか良いと思うの」
そう言って母親が取り出してきた写真と釣り書に目を通した。
どこかの政治家の息子らしく、自身は外交官であるとか。稔とは20も歳が離れていることに彼女は眉根を寄せた。
あまり政治家との癒着は好ましくない。稔としては願い下げたい所だ。
しかし結局の所、政略結婚であることは明らかであるので、期待は出来ないだろう。
 今すぐに返事をしろとはさすがに言われはしないだろうが、母親の様子だと決断は急かされそうだ。
早速、他の見合い写真を見せようとする母親に、稔は着替えてくると言い訳して席を立った。

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